【発見】手話歌の歴史『ルーツは社会的に強い意味のあるもの』
・ 手話歌とは何か知りたい
・ 手話歌の起源や歴史を知りたい
・ 手話歌の本質を学びたい
・ 昔の人が手話歌をどう捉えていたのか学びたい
・ 現代の手話歌の立ち位置がよく分からない
これらの疑問や悩みに答えます。
こんにちは、ヒサノリです。
この記事では、日本の手話歌における歴史や起源について解説しています。
手話歌が好きな人、嫌いな人、本質を知りたい人には特におすすめです!
この記事を書いている僕は、学生時代に手話サークルに所属していました。
そこで手話の言語性に惚れ、自由さと美しさに感動し、独学で日常会話レベルまで到達しました。現在も暇さえあれば手話について調べたり勉強したりしています。詳しくはこちらをどうぞ。
日本の手話歌における歴史について、以下の流れで解説していきます。
- 日本の手話歌における起源
- 日本の手話歌における火付け役
- 現代の手話歌
手話歌の歴史
はじめに、「手話歌って何?」という人のために簡単に説明しておきます。
手話歌とは一般的に「歌の歌詞に手話を当てはめて歌うもの」です。
現在では手話サークルなどでもよく行われているので、見たことがある人も多いかもしれません。
では、日本の手話歌における歴史の解説を始めます!
1. 日本の手話歌における起源
結論から言うと「明治時代に大阪のイベントで行われた手話歌が日本最古のもの」です。
その証拠として、昭和12年に出版された『五代五兵衛. 〔本編〕』という文献に記述が残っています。
日本最古の手話歌
記述内容は簡潔に言うとこんな感じ。
明治35年に大阪の中之島公園地東公會堂という場所で慈善音樂諸藝大會というイベントがあり、そこで手勢(しゅせい)唱歌を演じている。
手勢(しゅせい)とは、一言で言えば「ジェスチャー」のこと。
いわゆる「身振りや手振り」です。
手勢に関しては、別記事で詳しく解説しています。
【必見】手勢と手話の違いとは?『言語 or ジェスチャー』
手勢(しゅせい)と手話の違いについて解説。手勢と手話の相違点を簡潔に説明できるようになります。できる限りシンプルにまとめたので、手勢について深く理解したい人は必見です。
つまり、この文献には「明治時代にジェスチャーで手話歌を演じた」と記述されていることになります。
手話歌は手話から始まった!?
しかし、この記述内容の「手勢」は、厳密に言うとジェスチャーではなく手話を指している可能性が高いんです。
理由は、当時の「手勢」という言葉の意味は、ろう教育の第一人者である古川太四郎の影響を大きく受けていると考えられるから。
古川は日本最古の手話歌より前の時期(明治11年)に、当時のろう教育研究の結果を発表しています。
そこには、シンプルに言うと以下のような記述がありました。
ろう者たちが実際につかう手勢から、日本語教育に取り組むべきである。
『京都府下大黒町待賢校潜唖生教授手順概略』より
つまり、古川は当時のろう者たちが用いている「手話」のことを「手勢」、つまり「ジェスチャー」と捉えていたわけです。
そのため、当時は「手話=手勢」と考えていた可能性が極めて高いんです。
この影響力を考慮すれば、文献に「手勢」というキーワードが使われていることに対して納得ができますね。
以上のことから、日本最古の手話歌は手話で演じたものだったことが分かります。
2. 日本の手話歌における火付け役
手話歌が大衆に普及していくきっかけとなったのは、「高橋潔」と「東京都ろう者協会の手話コーラス部」の影響が大きかったといわれています。
それぞれ手話を用いた手話歌を披露し、大きなインパクトを残しています。
高橋潔
彼は大阪ろうあ学校の校長を務めた経験もあり、以下のような手話歌を発表しています。
- 昭和7年に賛美歌を手話で歌う
- 昭和29年に新三朝小唄の歌詞と手話の振り付け
特に賛美歌の影響が大きかったといわれています。
なぜなら、教育の熱心さも同時に表れているからです。
彼は宗教教育を重視する視点をもっており、その考えから賛美歌を手話歌にしたそうです。
つまり、ろう者の生徒たちに対する教育の一環として手話歌を用いたというわけです。
東京都ろう者協会の手話コーラス部
手話コーラス部は、ろう者が中心となって昭和48年から53年まで約5年ほど手話コーラス活動をしていた団体です。
当時はデモがよく行われる時代であり、その最中に若者たちがグループで歌をよく歌っていたことが手話コーラス誕生のきっかけになったそうです。
しかし、徐々に手話歌がろう者から聴者中心のものに変化していき、手話コーラス部は廃止となりました。
つまり、手話コーラスは当時の若者文化から生まれた社会性の強いものであったというわけです。
以上のことから、そもそも手話歌は社会的な強い意味をもつものであり、当時のろう者たちに必要なものでもあったということが分かります。
※ より詳しく知りたい人は、以下の文献などがおすすめ。
・ 『手話讃美』(著)川渕依子 サンライズ出版
・ 『手話でうたおう 手話コーラス歌集 その1』東京都ろう者協会 手話コーラス部
3. 現代の手話歌
現代の手話歌は、主にエンタメの一環として用いられることが多いです。
体感値ではありますが、Youtuber・TikToker・ダンサーなど、エンタメ性の強い手話歌パフォーマーが近年SNSを中心に増えているように思います。
その結果、手話歌から手話に興味をもって学習を始める人も一定数でてきています。(※実際に僕が所属していた手話サークルにも、手話歌をきっかけに入部してくる人が何人もいました)
現代の日本で人気の高い手話歌に関しては、別記事で解説します。
また、以下のようにエンタメ以外で使われることもあります。
- 教育の現場で用いる
- 自治体が取り組みとして用いる
- 介護などの現場で音楽療法として用いる
教育の現場では「手話の学び」、自治体では「手話言語条例の取り組み」、介護の現場では「認知症ケア」。
このように、手話歌は様々な業界で様々な目的でも使われています。
※ より詳しく知りたい人は、例えば以下のサイトなどがおすすめ。
・ 神奈川県教育委員会『手話に関する取組事例集』
・ 栃木県日光市 日光市の歌
・ 日本音楽ヘルパー協会
以上のことから、現代の手話歌はエンタメ性の側面が強いが、幅広い業界で色々な目的で使われており、耳が聞こえる人にも広く普及しているということが分かります。
しかし、実は現代の手話歌に対して否定的な意見も数多くあります。
手話歌に対する否定的な意見については、別記事で解説します。
まとめ
最後にまとめます。
- 日本における手話歌の起源は、明治時代に大阪で行われた手勢唱歌
- 日本で最古の手話歌はジェスチャーではなく、手話で演じていた可能性が極めて高い
- 手話歌の普及には、高橋潔・東京都ろう者協会の手話コーラス部の影響が大きいといわれている
- そもそも手話歌は手話歌自体に社会的意味があり、ろう者たちにとって必要なものであった
- 現代の手話歌はエンタメのものが多いが、幅広い業界で使われており、耳が聞こえる人にも広く普及している
このように、手話歌は時代とともに変化してきました。
ここまでの手話歌における歴史を知ることによって、手話歌の本質が理解できたと思います。
そして、その理解の先に必要なものは一言で言うと「意識」です!
現代では手話歌は様々な目的として使われていますが、時代や世代に限らず共通して必要な意識は「手話は言語である」ということ。
「手話は手を使う→ジェスチャーと同じ」という思考にならないよう、耳が聞こえる側は強く意識しなければなりません。
「手話を扱う=言語を扱う」ということを忘れないようにするのが、今後の手話学習者の責務かもしれません。